このコラムのポイント
①ペインクリニックとは ②痛みにはどんな種類があるのか ③痛みや神経麻痺の治療はどのように行うのか |
こんにちは。
今回は歯科麻酔科の担当するペインクリニック(疼痛治療)について説明していきたいと思います。ペインクリニックを簡単に説明すると、事故や怪我、または治療の際の併発症のうち、長期化することで治りにくくなった痛み(慢性痛)や神経麻痺の治療を行うものです。※1 例えば、歯科領域では以下のようなものがあげられます。
- 歯には何も異常はないのに歯が痛いと感じる【筋・筋膜性歯痛】
- 何も見た目の変化はないのに舌がヒリヒリする【舌痛症】
- 帯状疱疹は治ったのに、顔がずっとビリビリする【帯状疱疹後神経痛】
上記のような痛みは、通常の痛み止めだけでは痛みを抑えることが難しく、特別な薬や処置を行う必要があります。そもそも「痛み」は大きく3つに分けることができます。※2 ペインクリニックでは、以下の3つの痛みのうち、痛みが長引いたり原因がわからない痛みの治療を担当します。
①神経が傷を認識することで起こる痛み【侵害受容性疼痛】
切ったりぶつけたりして体が傷つくと炎症が起きます。炎症が起きると体の組織は様々な痛みを伝える物質を産生し、これを受け取った神経が炎症を認識して生じる痛みです。日々の生活をしている中で最も起こりうる痛みだと思います。市販されているロキソニンなどの痛み止めで痛みを止めることができます。
②神経そのものが傷つくことで起こる痛み【神経障害性疼痛】
痛みを伝える神経自体が傷ついたり切れたりし、体に痛みはないのに痛みがあると誤った信号を伝えてしまうことで生じる痛みです。坐骨神経痛や帯状疱疹にかかった後に残る痛み、親知らずの抜歯、インプラント治療などの際に神経を傷つけてしまうことで生じます。ロキソニンなどの市販の薬は効かないため専用の治療薬で痛みを止めます。治療には長期間を要することがあります。
③本当は痛みがないのに痛みがあると脳が錯覚して起こる痛み【痛覚変調性疼痛】
体が傷ついているわけでもなく、神経に異常があるわけでもないのに痛いと感じてしまう状態です。原因には様々ありますが、慢性痛のように常に痛みを感じていた場合に脳が痛みを勝手に作り出してしまうことが原因であると言われています。ロキソニンなどの市販の薬は効かないため専用の治療薬を使用し、脳に「本当は何も異常がないんだよ」ということを理解させるための治療が必要です。治療には②の痛みよりさらに長期間を要することがあります。
ペインクリニックでの治療は、痛みに対する鎮痛や神経麻痺に対する神経機能の回復を行います。具体的には、
痛みに対して
- 原因や種類を特定
- 適切な薬剤を投与(薬物療法など)※3
- 痛みの原因を除去(理学療法など)
神経麻痺に対して
- 原因や種類を特定
- 適切な薬剤を投与(薬物療法など)
- 麻痺の原因を除去しリハビリを行う(理学療法など)
などの治療を行っていきます。主に医科や歯科の大学病院に設置されていて、具体的にどのような治療を行うのかがホームページに詳しく書いてあるものもあります。治療は主に麻酔科医、歯科麻酔科医が担当します。興味のある方はぜひご覧になってください。
【まとめ】
ペインクリニックは、原因がわからなかったり長期間に及ぶ痛みの治療や、神経麻痺の治療を担当します。痛みには①神経が傷を認識することで起こる痛み、②神経そのものが傷つくことで起こる痛み、③本当は痛みがないのに痛みがあると脳が錯覚して起こる痛みがあります。痛みや神経麻痺の治療には薬物の投与やリハビリがあり、麻酔科医・歯科麻酔科医が診断、治療を行います。
【注釈】
※1:日本ペインクリニック学会・ペインクリニックパンフレット(PDF)
https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_about.html
https://www.jspc.gr.jp/pdf/pamphlet.pdf
※2:痛みの種類
『慢性疼痛のメカニズムとアセスメント』Hiroki Igari, Takahiro Ushida Jpn J Rehabil Med 2021;58:1216-1220
※3:痛みに対して使用される薬
https://www.bjd-jp.org/archives/column/2083