このコラムのポイント
① 水道水とミネラルウォーターの違いは何か ② 水道水は体に悪いのか? ③ 薬を飲むときにはどちらの方が良いのか |
「薬を飲む時は水道水?ミネラルウォーター?」
みなさんも人生で何度かは薬を飲むことがあったと思います。風邪をひいたときの風邪薬、頭痛のときの痛み止め、心臓に持病がある方は血圧の薬や不整脈の薬など、この世の中には様々な薬が存在します。
では、薬を飲むときに何で飲んでいたか覚えていますか?
おそらく大きく2つに分けられると思います。
①水道水
②ミネラルウォーター
さあ、皆さんはどちら派でしょうか?(そんなにこだわりはないと思いますが…)。なんとなく、水道水は安いけど塩素が入っているし体に悪そう、ミネラルウォーターの方が美味しいし色んな成分が入っているから体に良さそう、といったイメージがあるかもしれません。※あくまで日本の話です
どちらが良い・悪いという話をするつもりはありません。ただ、実は薬の種類によっては水道水で飲んだ方がいいものもあります。これからご説明していきますね!
まず、水道水とミネラルウォーターの違いについてです。
水道水の水質基準は「水道法」という法律によって、ミネラルウォーターは「食品衛生法」という法律によって定められています。以下にその一部を比較してご紹介します。( )内は目標値。
水道水 | ミネラルウォーター(殺菌有) | |
一般細菌 | コロニー数が100/mL以下 | コロニー数が100/mL以下 ※2 |
大腸菌 | 検出されないこと | 陰性 |
pH | 5.8以上8.6以下(7.5) | 規定なし |
フッ素およびその化合物 | 0.8mg/L以下 | 2.0mg/L以下 |
鉄 | 0.3mg/L以下 | 規定なし |
ナトリウム | 200mg/L以下 | 規定なし |
カルシウム・マグネシウム | 300mg/L以下(10mg/L以上100mg/L以下) | 規定なし |
アルミニウム | 0.2mg/L以下(0.1mg/L以下) | 規定なし |
塩化物イオン | 200mg/L以下 | 規定なし |
残留塩素 | 0.1mg/L以上(1.0mg/L以下) | 規定なし |
このように比較してみると、ミネラルウォーターにはpHやミネラルの基準がないことがわかります。これは硬度(カルシウムとマグネシウムの量)によって硬水と軟水に分けられ、私たちが選ぶことができるようになっているからです。WHOの基準では、硬度が0~60mg/l 未満を「軟水」、60~120mg/l 未満を「中程度の軟水」、120~180mg/l 未満を「硬水」、180mg/l以上を「非常な硬水」と分類しています。全国の水道水の硬度は以下のようになっています。※3
また、水道水には消毒のために塩素が0.1mg/L以上含まれていなければならないと水道法によって規定されています。そのため、水道水からはプールに入ったときのような匂いがすることがあります。塩素は病原性のある細菌の繁殖を防ぐことで疫病が蔓延するのを防ぐために含まれており、また人体に影響のない範囲で調整されています。ただ、なんとなく飲み水で水道水を飲むのは体に悪そうだし、ミネラルウォーターをいつも飲んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな方にぜひ注意していただきたいのが、薬との飲み合わせです。薬の種類によっては、カルシウムやマグネシウムを多く含むミネラルウォーター(硬水)と一緒に飲むことによって体への吸収が悪くなり、効果が弱くなってしまう場合があります。以下に一部例を示します。
【ご注意!】
飲み合わせの注意などは、処方された病院の医師または調剤薬局の薬剤師にお問い合わせください。また、詳しい内容は添付文書をご参照ください。個別対応は致しかねます。
- 抗生物質(抗菌薬)
- ニューキノロン系
クラビット細粒、グレースビット錠、レボフロキサシン錠 等 - テトラサイクリン系
ミノサイクリン塩酸塩錠、テトラサイクリン塩酸塩 等 - 一部のセフェム系 ※4
セフゾンカプセル 等 - 一部のマクロライド系 ※4
ジスロマック錠・細粒 等
- ニューキノロン系
- 甲状腺ホルモン製剤
チラージンS 等 - 骨粗鬆症治療薬
- ビスホスホネート系
アクトネル錠、リカルボン錠、ダイドロネル錠、ボンビバ錠、ボナロン錠 等 - ビタミンD製剤
アルファロール錠、アルファカルシドール錠、エルデカルシトール錠 等
- ビスホスホネート系
- 抗HIV薬
- 非ステロイド性抗炎症薬(鎮痛薬)
セレコキシブ 等 - 抗アレルギー薬
フェキソフェナジン塩酸塩錠 等 - HMG-CoA還元酵素阻害薬(脂質異常症治療薬)
- 肝・胆・消化機能治療薬(利胆薬)
ウルソ錠 等 - 抗てんかん薬
ガバペンチン 等 - パーキンソン病治療薬
レボドパ 等 - 抗悪性腫瘍薬(慢性骨髄性白血病治療薬)
スプリセル錠 等
これらの薬をミネラルウォーターで服用すると、薬の成分がミネラル(カルシウム・マグネシウム・鉄・アルミニウム)とキレートを形成することにより、腸管からの吸収が阻害されることで血中の薬の濃度が下がり、薬の効果が十分に発揮されないことがあります。どの薬でも問題ですが、特に抗生物質(抗菌薬)では血中の薬の濃度が高く保たれていないと殺菌効果が不十分となり、耐性菌が発生することで薬が効かなくなってしまうことがあります。
結論、薬を飲む際には水道水、または硬度の低い軟水で飲むことをお勧めします。
【まとめ】
水道水とミネラルウォーターは、それぞれの法律によって安全性が保たれています。どちらも特徴がありますが、特にミネラルウォーターにはカルシウムやマグネシウムといったミネラルが豊富であるため、薬の種類によっては服用の際に気をつけなければならない場合があります。気になる点があれば、かかりつけの病院または薬局まで問い合わせてみてください。
【注釈・参考資料】
※1
水道法の基準項目と基準値(厚生労働省HP)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html
※2
殺菌でない場合には5/mL以下
※3
東京大学大学院総合文化研究科・教養学部より
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/news/topics/files/20210629watanabe_horisoubun01.pdf
※4
教科書的にはセフェム系およびマクロライド系は問題ないとされていますが、一部の薬で注意が必要な場合があります。
イラスト:
https://illust.pharmacists-memo.com/
https://medical.kyowakirin.co.jp/support/illust/2/024/